米軍志願率がアメリカよりも多いミクロネシア連邦
アメリカの全50州よりも、米軍志願者率が多いミクロネシア連邦。つまり、ミクロネシア連邦は人口に対する米軍兵の割合がアメリカのどの州よりも多い、アメリカ兵のリクルートパラダイスと呼ばれている。9/11以降、米軍志願者が減っている中、米軍にとっては簡単に志願者が見つかる天国、ということらしい。
※私の英語力で理解して書いた記事なので、内容に誤りや誤解がある恐れがあります。
それにスポットを当てたドキュメンタリー映画が「Island Soldier」だ。いくつかの国際映画祭で受賞やノミネートされている。プロデューサーはピースコープボランティアだったNathan Fitchさん。
http://www.islandsoldiermovie.com/
映画 Island Soldier(アイランドソルジャー)
サイトの紹介文にも書かれているが、アメリカのために戦っている人は実質的には誰なのか?アメリカは実際は他国からの志願兵を使い捨ててるのではないか?という問を投げかけてくる。ミクロネシア連邦の国民はアメリカの政治への投票権を持っていない。しかし、戦争には連れて行かれて、アメリカのために殺される。
ミクロネシア連邦の国民はアメリカに自由に渡航し、労働をすることができる。そのため、グアムやハワイ、アメリカ本土へ出稼ぎにいく人たちがとても多い。2012年のある調査ではミクロネシア連邦外にいるミクロネシア連邦国籍の人々は約5万人。これはミクロネシア連邦の人口の約1/2~1/3にあたる。正確な人口が不明なので、概算だが、ミクロネシア連邦3人に1人はアメリカにいることになる。しかし、元々教育がきちんとなされていないことや国民性が理由で差別の対象にもなっていると聞いたことがある。グアムやハワイでは本当に嫌われていて(特にチューク人)性犯罪をよく起こすのはミクロネシア連邦人だ、とまで言われることもあるらしい。アメリカ本土ではきつい肉体労働しかできず、結局ミクロネシアに逃げ帰ってくることもあるらしい。実際、俺のホームステイ先の隣に住んでいる人はアメリカ西海岸で仕事が嫌になって、大麻におぼれて強制送還になったそうだ。
アメリカで撮影された映像とコスラエで撮影された映像が交互に使われていて、イマイチ時系列がつかめない。コスラエがメインの舞台になっているが、チュークの島や沈船の映像も使われていて、視聴者が誤解しそうだ。
映画がはじまると、まずは死んだコスラエの米軍兵が軍用機で運ばれてくる、葬式のシーンから始まる。泣いている母親の映像がショッキングだ。そして、ボロボロの家や舗装されていない道路と正反対のパリッとした米軍の制服の差が不思議だった。この差こそ、アメリカの支援下におかれるミクロネシア連邦の現状を表している気がした。本来正反対のものが一緒になっている違和感。
その後は3人のコスラエ人兵士に関するドキュメンタリー仕立てになっている。アメリカで生活しているコスラエ人の家の映像は、ミクロネシアで見る生活とあまりに違っていて、米軍に志願することで得られる先進国の生活との差を目の当たりにした。綺麗な家、裕福そうな家庭、大きなテレビ、綺麗で大きな車。
兵士の両親や本人もインタビューで答えているように、この国は貧しい、アメリカへの恩返し、子供には良い教育をさせたい、若い人がいなくなるのは家族だけでなく島全体に影響がある、米軍に入れば良い給料と生活ができる、でもそれは危ないことだ、とメリットとデメリットの中で葛藤している様子がわかる。
アフガニスタンへ出兵するために、家を経つシーンで子供が離れない様子や、死んだ息子の名前をつけたお店をやっている両親、生きていた頃にアフガニスタンで撮られた息子の映像を見て泣きそうになる母など、印象的なシーンが多い。
アメリカにいる息子にフェイスブックで電話をかけても、インターネットが弱くて会話にならず、回線が切れるシーンがあった。これはすごくつらい。自分も体験しているからわかる。簡単に連絡がとれないのは両親にとってすごく悲しいことだろう。
当たり前のことだが、作中に出てくるミクロネシア出身の兵隊は屈強な体をしている。きちんとトレーニングを受けているからだ。この国にいる人たちは本当にひどい身体をしている。みんな太っていて、生活習慣病も多いし、突然死も多い。本来ならば屈強な海の人種なのだから、健康的な生活をしていればこれだけ男らしい身体になるんだということにハッとさせられた。
高校生にたいして、米軍のビデオが流れているシーンでは米軍に入るメリットを説明していた。この国を出る方法はほとんどない。仕事もないし教育もないし、差別もされる。米軍なら、と思ってもおかしくないだろう。
この国の経済はスローだ、と言っていた。そう思う。本当に何もしなくても死にはしない。この国で高みを目指すのは無理だと思う。モチベーションを奪う要素が多すぎる。自分もそれに飲み込まれて、向上心のあるような意識は一瞬で消えて、毎日昼寝してぼけーっとしている日が多い。そんな中、米軍への出願はなにかを変えるきっかけに見えるのかもしれない。
死んだ息子の名前をつけたお店Sapp’s cornerが閉店になった、というシーンは思わず、えっ、と声が出てしまった。スロービジネスが閉店に追い込んだ、と書いてあった。コスラエに行ったらこのお店に行こうと思っていたのでショックだ。
お店が閉店した両親が、退役軍人の手当?みたいなのを貰いに申請に行ったシーンでは「コンパクトには退役軍人に関する手当について記載がない」みたいなことを言われていた。これは俺の英語力ではよくわからなったから間違っているかもしれない。
【後日追記】ミクロネシアでの生活が長い日本人の方に教えてもらった。アフガニスタンで戦死したミクロネシア人の家族にはきちんとお金が支払われて、ポンペイで家や車を買えた人もいるらしい。映画で描かれているほど、必ずしも補償がないわけではなさそう。米国人同様に昇進もあるそうで、きちんと対応されていることもあるようだ。
劇中の字幕によると、ミクロネシア連邦の平均年収は2000ドルに対し、米軍の初任給は18,000ドル。
アメリカで行われるカンファレンスに参加した死んだ兵士のお父さんが発言できなかったシーンには心が傷んだ。運が悪かっただけなのか、肌の色とかで差別されてしまったのか。声が届かないというこは本当に辛いものだ。
死んだサップの親友がコスラエにきたシーンでは、なんだかフォレスト・ガンプとバッパのシーンを思い出した。彼らも米軍により引き離された友情だった。英語が難しくてよくわからなかったが、なにかの任務で残る人を募った時、サップは名乗り出たと言っていた。この親友はアメリカ人のようだ。差別の対象だと聞いていたミクロネシア連邦人をここまで想ってくれるアメリカ人がいるということが、なんだか自分のことのように嬉しかった。
ガソリンを買う金がなくて釣りができない、2023年にコンパクトは終わる、お店が閉店したから先生になろうかと思っている、、、最後のシーンに出てくる言葉たちは重い。日本やアメリカがもたらした近代化はこの国や人々にとって本当に必要だったのか?それによって苦しめられている人々がどれくらいいるのだろうか?そして、どれくらいの人が本当に幸せになれたのだろうか。支援というのは実は搾取や植民地政策と同じなんじゃないか?政府と政府による外交の推進や国同士の友好というのはどれだけの国民にメリットを与えているのだろうか。
なんか、あまりに強い衝撃を受けてしまって、自分の青年海外協力隊という立場を考えてしまう。そして、なんだかすごく落ち込んでしまった。ミクロネシア連邦に関わる人なら必ず見るべき映画であることは確かだが、強いメッセージ性にダメージも受けた。でも、見てよかった。考えるきっかけになることはいいことだ。そして、それに対してゆっくり答えを見つけられるといいな。
追記
2020年3月にコスラエに旅行に行った。まだSapp’s cornerは残っていた。近くにいたお爺さんに写真を撮っていいか聞くと、快諾してくれた。彼もSappのことを知っていて、自分が映画を見てここに来たことを話したら嬉しそうにしていた。
コスラエの観光地、ウトウェ生物保護区。ここでドローンを飛ばして写真を撮った。その時、ボートを運転してくれていたコスラエ人は元、アメリカ軍の基地で働いていたらしい。彼はドローンを見るのが初めてだったようで、とても驚いて興奮していた。コスラエツアーカンパニーの日本人ガイド、村山さん(コスラエ太郎)が「ドローンは兵器にも使われ始めていて、無人で攻撃もできるんだよ」と話すと、そのコスラエ人は「それならもうスカウト(米軍が志願を募ること)は要らないね」と言っていたのがすごく印象的だった。