ミクロネシア連邦ヤップ島の石貨を全て見に行ってみた!【日比谷公園、ヤップ島、日本、現在、価値、場所、ストーンマネー、民族学博物館、沖縄海洋文化館、貨幣博物館、北海道大学総合博物館】

日本中にあるヤップの石貨を巡った記録

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ミクロネシア連邦ヤップ州で実際に使われていた、石のお金(石貨)。石貨はヤップ島にはない石灰岩で出来ている。500km離れたパラオで切り出した石灰岩を「いかだ」でヤップまで運んでいた。日本のいくつかの場所で見ることができる。

石貨はお金だと解説されていることも多いが、元々はいわゆる通貨よりも貴重なもので、ヤップの人たちがとても大事にしていた物。なのでミクロネシア連邦国外で実物を見ることができる場所はほとんどない。日本の下記の場所で実際に見てきた。

  1. 東京の日比谷公園に無造作に1枚置かれている。
  2. 大阪の 石貨 | 国立民族学博物館 2枚展示されている。
  3. 沖縄の美ら海水族館がある海洋博公園内の海洋文化館に1枚展示されている。
  4. 神奈川県辻堂駅の商業オフィスビル「アイクロス湘南」レプリカの石貨がある。
  5. 東京日本橋の貨幣博物館に1枚展示されている。
  6. 札幌の北海道大学総合博物館に1枚展示されている。
  7. 野外民俗博物館リトルワールドに数枚展示されているが、レプリカらしい?(未訪問)

ミクロネシア連邦ヤップってどこ?

ミクロネシア連邦はグアムの南、西太平洋に広がる島国。第一次世界大戦から第二次世界大戦まで日本領土だったエリアの1つ。1986年にアメリカ信託統治から独立し、ミクロネシア連邦という国家になった。国を構成する4つの州の1つがヤップ州。ヤップ州最大の州都があるのがヤップ島。私が隣のチューク州に住んでいた時にヤップに旅行で行った。

ヤップ島 - Wikipedia

日比谷公園にあるヤップの石貨

無造作に置いてあるだけなので、知らない人がけっこう多い。実際に見に行ってみた。久しぶりに行ったら、草が伐採されていて、すっきりしていた。日比谷公園の道端に置かれたヤップの石貨。場所はこのあたり。

 グーグルマップにも載っているので、見つけるのは簡単。日比谷公園内のマップなどには載っていない。

日比谷公園にあるヤップ島の石貨 - YouTube

日比谷公園とヤップ島を動画で繋いでみた動画。

日比谷公園のヤップ島の石貨現在の価値

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石貨はヤップ語では「ライ(Rai)」という。石貨は鍾乳石・結晶質石灰岩で出来ている。案内板によると、大正13年(1924年)に1000円くらいで使えたそうだ。現在の価値にすると150万円くらいらしい。といっても、ヤップの石貨は現在の紙幣のように日常的にそれで買い物をしたり、という使い方ではなかったので同じように捉えるのは間違っていると思う。

ヤップ在住が長いスーさんの記事を参考にさせて頂いた。現地在住が長く、現地語や文化を理解されているスーさんの意見が一番真実に近いのではないか、と私は思う。スーさんにはヤップに遊びに行ったときに大変お世話になった。

1924年にヤップ島支庁長から寄贈された、と書いてあるが大事なことが抜けている。この時代はヤップ周辺は日本の統治下であり、日本が日本に寄贈したものであること、歴史の事実が抜けている。日本管轄の南洋庁の支所から日本政府に送られたものだということが伝わらないと、これはヤップの現地の人たちから送られたものだと勘違いしてしまう。

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私が以前住んでいたミクロネシア連邦チューク州にはこういった文化はなかったが、ヤップもチュークも日本やアメリカによって紙幣経済、資本主義が持ち込まれた。それに伴い、お金(Money)という表現で表されるこの石貨だが、当時は人と人の結びつきを表すものであったそうなので、お金と呼ぶべきなのか疑問だという意見に自分も賛成。

石貨の価値は?

 

現在でもヤップに行けば石貨は普通に見ることができる。一部では現在も使用されているということも聞いたことがあるが、真偽は定かではない。ヤップにも中国資本などが流れ込んでおり、貨幣社会になってきている部分も多い。ただ、過去も現在もこの石貨は「モノを買うための紙幣」という使われ方はしていない。それははっきりしていることだ。

石貨は現代の通貨としての価値は持たず、持ち主や一族の資産として、冠婚葬祭などの儀式で使う贈答品として価値を持つ。石貨を贈り合うことで、両者の結び付きを強くする精神的な価値があると言えるかもしれない。

例えば結婚した時にお互いの家族の結びつきを強くするために石貨を贈り合う、村同士で争いをして和解のために石貨を贈り合う、酔って相手の家を破壊してしまったお詫びに石貨を贈る、など。双方向で贈り合うこともあれば、感謝やお詫びの印として一方的に贈ることもあるようだ。贈り物ではあるが、石貨本体は受け渡しせず、動かさないで所有権だけが移るシステム。

なので、ヤップに行くとヤップ人の家の前には石貨が置いてあることが多いが、聞いてみると以前に所有権が移っていて、その家の人の物ではないとか所有者が今ではわからないということもあるらしい。かといって資本主義の土地のように、貨幣などで石貨の所有権を買うことはできない。

石貨の価値はパラオで切り出した石灰岩をヤップに船(当時は原始的ないかだ)で持って帰ってきた時の苦労度で決まるとされる。大きさや厚み、色は関係ないらしい。ただし、割れた石貨は価値がなくなる。

航海時に嵐を乗り越えたとか、長期間の航海でヤップに運んだ、とかそういうストーリーが石貨の価値になる。その価値やストーリーは石貨の持ち主や家族、一族や村の口承で後世に伝わっていく。しかし、ヤップ最大(約3m)の石貨がわかりやすいので観光地になっている。

参考 石貨 (ヤップ島) - Wikipedia

参考 ヤップ流伝統文化の継承−人々の心をつなぐ石貨− | 世界HOTアングル - JICA

日比谷公園のヤップ島石貨の置き方は間違っているらしい

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この石貨は置き方が間違っているらしい。それが本当だとしたらヤップ現地に対する敬意が欠如している。日本が日本に送って展示した、というのがちょっと滑稽に思える。しかし、80年以上前の物が現在でも手に触れられるように展示されていることは歴史の重みを感じる貴重な物だ。けっこう欠けているように見えるが、さらに壊されたりすることのないよう、ずっとこのまま展示されていて欲しい。

夜の日比谷公園ではヤップの石貨をライトアップしてみよう!

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飲み会の後や気持ちの良い夜の散歩などに最適な日比谷公園。石貨周辺は街頭があるだけで暗いが、スマートフォンなどのライトで裏側から石貨を照らしてみてほしい。

iPhoneのライトで半透明の鍾乳石・石灰岩の純度が高い部分を裏から照らすと、とても綺麗に光が透過する。

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日中は白っぽく見えていた石貨に光を通すと赤みがかかり、暖かい印象を受ける。鉱石の不思議だ。是非、有志で集まって裏からたくさんのライトで照らしてみたい。

日比谷公園にある南極の石

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ヤップの石貨近くには南極の石もある。置き方がやばい。柵からはみ出てるんですけど。手に触れたり、近くで見れるのは嬉しいことだが置き方が適当すぎて笑える。そして、ヤップ島石貨、南極の石、他にも古代北欧文字石碑など、エキゾチックで謎の物体たちが多い日比谷公園。不思議な公園だ。

現在のヤップで見れる石貨

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ヤップを訪れたのは2019年6月。石貨やヤップの踊り、文化から想像する以上に発展していた。電気、インターネット、道の舗装、お店の品揃えなどは意外と十分だった。マンタレイリゾートというミクロネシア連邦最高級のホテルもある。泊まってみた記事は下記。

ヤップのマンタレイベイリゾートに宿泊してみた【ミクロネシア、ヤップ、ダイビング、ヤップダイバーズ、Wi-Fi】 - Travel Kurarin

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石貨は1931年まで製造されていたそうで、現在でもヤップ現地ではたくさん置いてある。石貨は至るところにあって、珍しいものではない。

横から見た写真。

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お店や建物の軒先に飾ってあることも多い。

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レストランにも無造作に置かれている。

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マンタレイベイリゾートのアメニティは石貨の形をした石鹸だった。ストーンマネー、と書いてある。

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ヤップのマングローブに残る「タガレン水道」と日本語で刻まれた石貨。看板、道路標識として石貨が使われている。

Drone view & Diving with Manta / Yap, Micronesia/Colonia town aerial view - YouTube

ヤップの街の様子などはこちらの動画を是非。

パラオで見られるヤップ島石貨関連の情報

元々、ヤップ島の石貨で有名なのでヤップで造られたという印象が強いが原産はパラオ。

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この岸壁はパラオにあるヤップの石貨の原料となる石灰岩が切り取られていた場所。それを加工してヤップに船で持って帰ったらしい。パラオのダイビングやマリンアクティビティに参加すると船で立ち寄ることが多い観光地の1つ。

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パラオの市街地はずれにあるエピソンミュージアム。ここにもヤップの石貨が展示されている。他にも貴重な資料が多く展示されているので、パラオに行ったら必ず訪れて欲しい。

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英語では「ヤップだけが円盤状の貨幣文化を持っていたわけではない。パプアニューギニアやソロモンでは貝のお金が使われていた」と書いてある。貝はキラキラしているし、イメージしやすい。石のお金を使っていた文化は他にもあるのかもしれない。

日本全国にあるヤップの石貨を見に行こう

ヤップの石貨をミクロネシア連邦国外で実物を見ることができる場所はほとんどないはずだが、調べるとけっこう日本全国にあることがわかった。実際に見てきた。

大阪・万博記念公園にある国立民族学博物館のヤップの石貨展示

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まさにダンジョンのような、奥が深い博物館「国立民族学博物館」。興味がある人は1日中いられる場所だ。最初の展示コーナーが大洋州・オセアニア地区で、ミクロネシア連邦関連の展示物がたくさん並んでいる。中でも目玉は写真右側に写っている船、チェチェメニ号の現物展示だろう。この船は星などを頼りに、電気や電波を使わないで太平洋を横断するスターナビゲーションを1975年に行った現物品なのだ。

チェチェメニ号 | 国立民族学博物館

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ミクロネシア連邦の展示物の中に、ヤップの石貨が2枚ある。

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大きな方は1977年収集とある。太平洋戦争後にミクロネシア連邦がアメリカの信託統治地域だった頃に日本に来たのだろう。「お金」という表記がなく、好感を持てる説明文だ。

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驚いたのは小さい方の石貨。1914年収集、とある。現ミクロネシア連邦周辺の島々が第一次世界大戦の結果、日本統治時代が始まった年だ。となると、おそらく日本に最初に渡ったヤップの石貨であり、日本に現存する最古の石貨でもある。

ミクロネシア連邦の展示物など、国立民族学博物館(大阪) - YouTube

国立民族学博物館で見れる展示物の一部をスライドショー動画にした。

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石貨がパラオからヤップに運ばれていたように、大洋州では海を超えた貿易がよく行われいた。離島の住人になって、ヤップと貿易をしてみるゲームがあり、各島でどんな物が交換されていたのか勉強できる。

沖縄の海洋博公園内、海洋文化館に展示されているヤップの石貨

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美ら海水族館がある、沖縄海洋博公園。1975年の海洋万博を記念して作られた公園だ。那覇からは少し遠いが、美ら海水族館が人気で一度は行ったことがある人が多いのでは。公園内には水族館以外にも植物園などの施設があり、1日楽しめる。

大阪の国立民族学博物館に展示されているチェチェメニ号が伝統航海術でミクロネシア連邦から航海をしたのは沖縄海洋博に向けた航海イベントだった。

公園内の施設の1つ、海洋文化館・プラネタリウムは入場料190円でかなり見応えのある、穴場施設。太平洋の島々の文化などがわかりやすく紹介されている。その中にヤップの石貨も展示されていた。

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太平洋諸国ではイルカの歯や貝殻などをお金(通貨ではなく価値や信頼の媒体として)にしていた、という内容の展示にヤップの石貨が代表例で展示されている。「人と人を結ぶ」という表現が現代の通貨を異なる価値であることを示しており、個人的には好印象の展示だった。

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日比谷公園の石貨に比べると小さいが、綺麗な円形をしている。

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1970年代に収集されたと書いてあるので、海洋博のために収集されたのだろうか?どうやって運ばれたかは不明。もしも、チェチェメニ号で運んできていたら大航海なのですごい価値になったのかもしれない。

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パラオから運んで作った、という事実が書かれており、良い展示紹介文。

神奈川県辻堂駅の商業オフィスビル「アイクロス湘南」にはなぜかレプリカの石貨がある

Instagramのフォロワーさんが発見して、教えてくれた。一帯なぜこんなところにわざわざレプリカの石貨が・・・?

西側のエントランスに入ると、エレベーターホールに石貨がある。

アイクロス湘南は10階建ての普通の商業オフィスビル。

雨か湿気でガラスが曇っていた。

読みにくいが、ミクロネシア連邦ヤップ島の石の貨幣を南アフリカ原産のオリーブグリーンという石で作成した、レプリカらしい。なぜこんな物をわざわざレプリカで作成しようと思ったのか気になる。

持ち運ぶシーンを再現したのか、木の棒が中央の穴に通っていた。

東京 日本橋の日本銀行貨幣博物館にあるヤップの石貨

日本銀行に併設する、貨幣博物館にもヤップ島の石貨が展示されている。

Google マップ

正式名称は日本銀行金融研究所 貨幣博物館。入場無料。

入り口では手荷物検査がある。

貨幣博物館の展示室は撮影禁止だが、ヤップ島の石貨は撮影可能な展示室外のロビーに展示されている。

丁寧に管理されているからか汚れや欠けはないように見える。

岩の中でも特に白い部分でできているようで、他の日本国内で見れる石貨に比べて白くて綺麗だ。

不動産売買や労働の対価、婚礼の贈答に使われている、という紹介とヤップ島現地の写真がある。ずっと「せきか」と読んでいたけど、「せっか」が正しいらしい!?

北海道大学総合博物館にあるヤップの石貨

札幌にある北海道大学、構内の博物館にもヤップの石貨が展示されている。

https://www.museum.hokudai.ac.jp/

入館手続きなどは不要で、観光客も無料で閲覧できる。大学構内がもはや1つの街くらい広いので、みんな自転車で構内を移動していた。構内にポロクル(ドコモ・バイクシェア)があったのが印象的だった。

北12条駅から徒歩15分ほどで北海道大学総合博物館に到着。

3階建てで、じっくり見ると1時間くらい。寒い地域での民族や海洋系の研究など、見ていて面白い展示もあり。

探偵はBARにいる、のロケ地でもある。

2022年9月現在、ヤップの石貨は2階の北大のいま、のコーナーに展示されている。以前は3階や1階などにあったようで、展示場所が変わっているようだ。

1階に100円返却式の無料コインロッカーあり。

経済学部のコーナーにヤップの石貨は展示されていた。

なんか、黒いな。ヤップ島現地で見た石貨も黒いのがあった。

1937年から北海道大学で補完されているそうで、古い木製の札がついている。

石貨
1937(昭和12)年6月、北海道帝国大学教授(当時)上原三郎氏が南洋諸島の産業調査に従事した際に、当時、大日本帝国の委任統治領であったミクロネシア連邦のヤップ島より持ち帰った。その後、永きに渡り北海道大学附属図書館本館に保管されていたが、2009年春に総合博物へ移管された。
石貨は、伝統的な貸借関係や詫びなどの気持ちを表すツールとして、現在も用いられている石の貨幣で、現地では「ライ」「フェ」などと呼ばれる。サイズも直径数センチから2.5m以上の巨大なものまである。材質は石灰岩で、パラオの鍾乳石を切り出してカヌーで運ばれてきたものとされている。戦中・戦後に破壊されたり海外に持ち出されたものも多く、現在では石貨のヤップ州以外への持ち出しは一切禁止されている。石貨と併せて移管された木製の銘板には、この石貨が北大へ来た来歴等が記されている。
寄贈:上原報三郎/産地:ミクロネシア連邦・ヤップ島/所蔵:北海道大学総合博物館

中央には亀裂?が入っている。人が触ってきた跡なのか、なんかツヤツヤしていた。

大きさはあまり大きくなく、直径60cm程度。大きさ比較のために手を近づけただけで、触れていはいない。欠けているところから、石灰岩が見えた。北海道大学のヤップの石貨は黒かった。

他にもヤップの石貨が日本国内にあるらしい

箱根の彫刻の森美術館、愛知の野外民族博物館 リトルワールドにも石貨がある。

ヤップ島舟小屋の屋根が…! | 学芸 | スタッフブログ | 野外民族博物館 リトルワールド

デイリーポータルZの自由ポータルZでご紹介頂きました!

画像引用 https://dailyportalz.jp/kiji/2022-07-29-JiyuPortalZ

ヤップの石貨をひたすら集めた記事として応募してみたところ、記事投稿企画で紹介頂きました。

ヤップの石貨・パンドラの箱・イカの姿フライ~自由ポータルZ :: デイリーポータルZ